【書評】奥田昌子著『胃腸を最速で強くする』

前置き

 今回は、初の書評記事です。本当は別の本を買うために行った本屋で、目的の本の隣にこの本があり、斜め読みを20秒くらいして(両方とも)即買いしました。まずは本書の構成を書いておきます。

奥田昌子著(幻冬舎新書
タイトル:胃腸を最速で強くする
サブタイトル:体内の管から考える日本人の健康
構成:
 第1章 体を支える管たち
 第2章 健康の要・消化管のしくみと働き
 第3章 その生活習慣が胃腸を傷つける
 第4章 なぜストレスで胃腸は壊れるのか
 第5章 管をいたわる健康法

 https://www.amazon.co.jp/dp/4344985427

 

ネガティブな面

 さて、結論から言うと、「日本人の約10人に1人」と言われる過敏性腸症候群IBS)をはじめ、いくら検査をしても原因が特定できない消化器官の症状を持つ方、本書では機能性ディスペプシアなども含めて「機能性消化管障害」とくくっていますが、その方々にとっては、もしかするとそこまで有益な情報は書かれていないかもしれません。理由は、次の通りです。

  • 5章構成のうち、1~3章は、消化管に関するしくみや生活習慣などの因果関係がはっきりしているタイプの障害について解説されており、他人事に感じられるかもしれません。
  • 4章でストレス性の機能性消化管障害に関するしくみが解説されており、最後の5章でようやく対策方法について触れられていますが、特にIBSの方は自分の体調の因果関係を調べようと必死に知識を付けてきたと思いますので、多くの事項は既に知っている可能性があります。

 それと、読者によってはお勧めしかねるもう一つネガティブな情報を先に出しておきます。

  • 「〇〇の人は、がんになる確率が〇〇の人に比べて〇倍です」という記述が頻繁に出てきます。〇〇には、どうにかなる生活習慣もあれば、既に読者が罹患しているかもしれない障害であったり、あるいは血液型であったりして、読むことで悲観的になり症状が悪化しかねません。

 

ポジティブな面

 と、ここまでネガティブなことを書きましたが、実は総合的な満足度は決して低くありません。つまりお勧めはしづらいけど、僕は面白かった、ということです。理由をまた箇条書きにすると、次のようになります。

  • 各項目の文量が多すぎず、必要な場面で図やグラフがあり、重要なセンテンスは太字になっており、客観的で定量的な説明が多く、ロジックがシンプルで、つまり、とてつもなく読みやすい
  • 幅広い知見がよくまとめられており、勉強になる
  • 最先端の研究についても触れられており、ありがたい(今年の3月第一刷発行)

 いや、本当に筆者(編集者)の方の「情報収集能力」と「伝える能力」の高さには驚きます。真似したいです。

 以上をまとめると、本書は、次のような方にお勧めします。

  • 胃腸のしくみと障害について基本的なことから勉強したい人
  • 胃腸の健康全般について簡単なリファレンス本として利用したい人
  • 健康法を知ったとき、ちゃんと記憶して人に伝えたり実践できる人
  • たとえ収穫がわずかでも新しい知見や健康法を知りたい人
  • ネガティブなデータも気にならない人

 

印象的なセンテンス

 ここまで、抽象的なことばかり書いてきたので、最後に、驚いたことや共感したことなどをいくつか引用しておきます。(太字は原文ママ

  • 脳がストレスを感じ、その影響が消化管におよぶしくみには自律神経以外の経路もかかわっていることが、近年、少しずつ明らかになってきています。(第4章)
  • 機能性消化管障害や心身症のつらい症状が起きる人と起きない人がいるのはなぜでしょうか。一つは遺伝の影響です。(中略)ただし、一卵性双生児であっても、もう一方の双子が過敏性腸症候群になる確率は約14%に過ぎず(後略、第4章)
  • 過敏性腸症候群は、少し前まで、(中略)四つに分類されていました。現在ではガス型は過敏性腸症候群の仲間からはずれ、機能性腹部膨満症に分類されています。(第4章)
  • 日常生活のなかで胃腸をいたわることがなければ、病気は形を変えて何度でもあらわれてきます。管の声に耳をかたむけて、その健康を守る最終責任は、管を持つ私たち自身にあるのです。(第4章)
  • 腸内環境を整えるにはヨーグルトより食物繊維を(第5章)
  • とくに身近な人との関係では、人は人、自分は自分と割り切ることも重要です。(第5章)

 ここで、「最終責任は、私たち自身にある」というのは、IBSのような普段から体のことを気遣わなければいけない人にとっては、いわゆる「自己責任論」のような医者から見放されたような酷なことに映るかもしれませんが、趣旨はまったく違うと思っています。自分の体に自分自身が向き合って、体質も含めて認めたうえで、医者の助けを借りつつも最終的には自分こそが一番健康にする能力を秘めていることを信じてください、というメッセージだと受け取りました。ときには弱音を吐いても構いません。でも、悲観的にならないように、視野を広げていきたいですね。